みなとみらい (清塚信也 OFFICIAL BLOG)

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2008.10.26

みなとみらい

僕はどちらかというと時間に余裕を持って行動したい部類の人間だ。
流石に最近は時間が勿体なくなってきたので、
1時間で行けるところを2時間みて行く事はなくなったが、
それでも出来るならば今でもそうしたいくらい時間に余裕を持っていたい。
要するに急ぐのが大嫌いなんだ。

僕は今日、みなとみらいへ45分も多く時間をみて出発した。
思いのほか道が空いていたので、さらに早く着いてしまった。
楽屋でお昼を食べるのが嫌だったので、
みなとみらいホールの目の前にあるカフェでサンドウィッチを頼み、
コーヒーをちょびちょびと飲んでいた。
1時間もそこで本を読んだり携帯に残っている好きなメールを読み返したりしていた。
ぼーっとした心になるととても心地よかった。
少しはアーティストっぽくしなきゃと言うことで、
一度みなとみらいホールを迂回してわざわざ楽屋口から入った。
なるべく時間をかけて楽屋に着くように、僕は絨毯の縫い目を踏まないように丁寧にぐずぐず歩いた。
まずは最初のエレベーターでB1へ。
そしてまた違うエレベーターに乗り換えて5階に行けば小ホールの楽屋に辿り着く。
この乗り換えた方のエレベーターは楽器搬入が出来るようにとても大きいサイズになっている。
普通の3倍はある。
ひとりで乗るのはいつも落ち着かない。
僕はそのビッグサイズエレベーターに乗ると、5階のボタンを押して、続けて閉めるボタンを押した。
そして、この大きな「部屋」のどこに立とうか考えた。
真ん中というキャラでもないので、一番奥の端っこに立つことに決めた。
エレベーターは難しい事を考えてる哲学者のようにコツコツと音をたてて上に上がっていった。

1階につくと、エレベーターが止まり「かば」が重い足取りで入ってきた。
かばがエレベーターに入ると、エレベーターが大きく揺れてちょっと位置が下がった。
かばは何事もなかったかのようにボタンを6階に押した。
かばはすごい音で鼻息を出していた。
かばは二足歩行していたので、息をする度に肩が上下に動いていた。
かばはピンクの小さなミニスカートを着ていて、真っ赤なピンヒールをはいていた。
「天才はね、タイミングが大切なのよ」とかばはボタンの方を見ながら言った。
僕に話しかけているのかどうかわからなくて、僕はおどおどしてしまった。
「まずはね、じっくりしぼってやるの。それからじっくり煮込むのよ」
僕はただ聞いていた。
「ここからが大切よ。じっくり煮込んだら、もうそこから出たくないよ〜って思わせるくらいドロドロに溶かしてやるの」
「ほう」と僕は言った。
「それでね、そいつの人生なんかないってくらい一つの事に没頭させるの」
「ほうほう」
「20歳になる頃、自分がどうしてそれをやっているのかわからなくなるの」
「それで?」
「それでね、最終的には麻薬のように、それがなくては生きていけないようにしてやるの」
「あまり良い話とは言えませんね」
「そうかもしれないわね。でも、見てる方は面白いわよ」
僕は頭に来た。
「あなたはあまり口のききかたが綺麗ではないですね」と言ってやった。
かばはだまってじっと前を向いている。
相変わらず鼻息をふんふんと鳴らしている。

エレベーターは5階に着いた。
僕はかばを横目にエレベーターを降りた。
僕の背中越しにかばが口を開いた。
「自惚れないで。あなたを天才っていってるんじゃないのよ」
僕は勢いよく振り返ってかばに反論しようと思った。
しかし、僕が後ろを向いた頃にはエレベーターはもう閉まっていた。
かばは一体何が言いたかったのだろう?
6階に追いかけていってやろうと思ったが、やっぱりやめた。
さぁ、ピアノ、弾こう。
大好きなみなとみらいで。