僕は20時12分東京発の最終電車に乗り込んだ。
考えてみればこの時間から東京駅発の新幹線に乗るのは初めてだ。
しかも上越新幹線。
北だ。
北に行く新幹線は寂しく感じる。
それに付け加えて最終電車という事が、より一層僕の寂しさを強いものにした。
でも、感傷的な気持ちは疲れているときには良い。
慰められたような気持ちになる。
僕がギリギリに乗車したため、新幹線はすぐに動き出した。
僕の乗っている車輌には殆ど人がいない。
ちらほらと人影が見えるが、そのどれもが本当に「影」かのように存在感のないものだ。
僕は静かに動き出した新幹線の車内で、まどろみのような感傷に浸っていくばかりだった。
新幹線は1時間と少しかけて越後湯沢に止まった。
僕はそこから直江津という駅まで行く。
越後湯沢での乗り換えは、僕の感傷的な気持ちを益々促進させた。
ひとつはその空気の良さ。
もうひとつはホームのローカルな感じだった。
空気の良さはただの新鮮さではなく、冬の温泉地の夜特有の冷たい空気だった。
乗り換えの列車は10分程度の待ち時間だというのに、ホームにはまだその姿が見られない。
この季節の越後湯沢がこれ程寒いとは知らなかった。
もう、冬の頭角を現している。
「……分発の金沢行き最終電車は点検のため5分ほど遅延致します」
アナウンスが駅構内に響き渡った。
誰もいない学校の校舎に響き渡るチャイムのようだった。
そのアナウンスの声がまた「おやすみ」とそっと告げる父親のようなトーンだった。
「まだ良い方です」
後ろから男性の声がした。
僕はその男性を見る前から、
何故かこの男性が典型的なサラリーマン風の格好をしていて、
黒縁眼鏡をしていることまでが分かった。
「これで2月ともなると真っ白な雪化粧です。そうなるともっと寂しいですよ」
僕は首だけを後ろに向けてサラリーマンの話を聞いていた。
「いやぁ、お若いのにお一人で越後湯沢からの最終に乗るなんて、面白いお方だ」
僕はゆがんだ笑顔をわざと作って鼻でふんと音をたてた。
列車がやっとホームに滑り込んでくる。
僕は切符を見て座席を確認する。
1号車、3番、C席。
席を見つけて荷物を上の棚に上げて座ると、通路を挟んで隣の席にさっきのサラリーマンが座っていた。
サラリーマンはこっちを向いて僕を直視している。
にこやかな笑顔を見せ、黒縁眼鏡の奥の瞼は穏やかな曲線を描いていた。
「わたしはね、今日で死ぬんです」
サラリーマンは確かに、そう言った。
つづく







