サラリーマン (清塚信也 OFFICIAL BLOG)

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2008.10.16

サラリーマン

僕は20時12分東京発の最終電車に乗り込んだ。
考えてみればこの時間から東京駅発の新幹線に乗るのは初めてだ。
しかも上越新幹線。
北だ。
北に行く新幹線は寂しく感じる。
それに付け加えて最終電車という事が、より一層僕の寂しさを強いものにした。
でも、感傷的な気持ちは疲れているときには良い。
慰められたような気持ちになる。
僕がギリギリに乗車したため、新幹線はすぐに動き出した。
僕の乗っている車輌には殆ど人がいない。
ちらほらと人影が見えるが、そのどれもが本当に「影」かのように存在感のないものだ。
僕は静かに動き出した新幹線の車内で、まどろみのような感傷に浸っていくばかりだった。

新幹線は1時間と少しかけて越後湯沢に止まった。
僕はそこから直江津という駅まで行く。
越後湯沢での乗り換えは、僕の感傷的な気持ちを益々促進させた。
ひとつはその空気の良さ。
もうひとつはホームのローカルな感じだった。
空気の良さはただの新鮮さではなく、冬の温泉地の夜特有の冷たい空気だった。
乗り換えの列車は10分程度の待ち時間だというのに、ホームにはまだその姿が見られない。
この季節の越後湯沢がこれ程寒いとは知らなかった。
もう、冬の頭角を現している。

「……分発の金沢行き最終電車は点検のため5分ほど遅延致します」
アナウンスが駅構内に響き渡った。
誰もいない学校の校舎に響き渡るチャイムのようだった。
そのアナウンスの声がまた「おやすみ」とそっと告げる父親のようなトーンだった。

「まだ良い方です」
後ろから男性の声がした。
僕はその男性を見る前から、
何故かこの男性が典型的なサラリーマン風の格好をしていて、
黒縁眼鏡をしていることまでが分かった。
「これで2月ともなると真っ白な雪化粧です。そうなるともっと寂しいですよ」
僕は首だけを後ろに向けてサラリーマンの話を聞いていた。
「いやぁ、お若いのにお一人で越後湯沢からの最終に乗るなんて、面白いお方だ」
僕はゆがんだ笑顔をわざと作って鼻でふんと音をたてた。

列車がやっとホームに滑り込んでくる。
僕は切符を見て座席を確認する。
1号車、3番、C席。
席を見つけて荷物を上の棚に上げて座ると、通路を挟んで隣の席にさっきのサラリーマンが座っていた。
サラリーマンはこっちを向いて僕を直視している。
にこやかな笑顔を見せ、黒縁眼鏡の奥の瞼は穏やかな曲線を描いていた。
「わたしはね、今日で死ぬんです」
サラリーマンは確かに、そう言った。

つづく