嵐のあとの静けさ
憎き弟アントニオとナポリ王のアロンゾー、そしてその仲間達。
プロスペローは彼らを自らの魔法で「改心」させることに成功しました。
ステファノーとトリンキュロー、そして怪物キャリバン。
彼らの悪事を防ぎ、迎え撃つことに成功しました。
そして、ファーディナンドとミランダ。
二人を深い深い愛の世界へと導く事に成功しました。
事は、プロスペローの思惑通りに進んでいます。
そして、自由を交換条件に働いてもらっているアリエルに、皆を自分の元へ集めるよう命令
しました。
これが、最後の仕事だ、と言って…。
アリエルが皆をプロスペローの周りに集めると、プロスペローは最後の力を振り絞って、
呪文を唱え始めます。
まずは、怪物を目の当たりにして正気を失いかけているアントニオとアロンゾー一行の正気
を取り戻させます。
次に、彼らの身動きが出来ないよう、術の力で縛り付けます。
そして、彼ら1人1人に心の中で話しかけます。
聖者の如き高潔なゴンザーロ。
お前のおかげで私たち親子は命を救われた。
あの温かいご慈悲、優しさ、私たちは決して忘れはしないだろう。
お前にかかった術は速やかに解け、失っていた活力を取り戻すだろう。
アロンゾー。
お前は私たち親子に酷い仕打ちをした。
だから、愛する息子を失ってしまった。
心から悔いるがいい。
そして、その弟セバスチャン。
お前は王がした仕打ちの推進役。
その悪事の責で今こうして苦しんでいるのだ。
…アントニオ。
我が弟。憎き弟。
お前は私たちから幸せと地位を奪った他、この島で王を殺そうとしたな。
全ての善なる行為から見放されたお前だが、私はお前を殺そうとしているのではない。
…許そう。
そう、お前を許すためにやったことだ。
だから、お前も改心してくれると信じている。
さぁ、私のかつての姿を取り戻そう。
アリエル、手伝っておくれ。
ミラノ大公の時の衣装を着けようと思う。
これは命令ではないぞ。友人としての、心からの「頼み」だ。
お前がいなくなると思うと、淋しい。
今となっては、日々の思い出が、煌めく音楽のように一瞬だ。
…さぁ、もういってよい。
アリエル、自由だぞ。
アリエル:あぁご主人様、私のことを愛しくお思いで?
蜂が飛び、花が咲き、私はその中で自由に暮らしていきます。
幸せに、幸せに、生きてゆきます。
さようなら、さようなら、さようなら…
行け!というプロスペローに、本来なら空気の如く風に乗って消え去ってしまうアリエルで
すが、この時はなぜかとぼとぼと後ろを確認しながら勢いの無い姿を見せます。
いざ自由を手にしたとき、アリエルの心にはきっと寂しさが表れたのでしょう…。
それを見かねて、プロスペローはアリエルを押し出します。
行け…、行くんだ!ほら!行け!!
追い出すように押し出しますが、アリエルがいなくなった時、
「強く生きていけ。私のかわいい妖精、アリエルよ…」
と悲しそうに呟きます。
プロスペローもまた、この別れに心を痛めていたのでしょう。
涙の、お別れです…。
アリエルとの別れを終えた後、プロスペローはかつてのミラノ大公の姿に戻ります。
そして、皆の前に姿を現し、今度は「人間」として話し始めます。
私の魔法で、ここにいる全ての妖精は私の使いとなった。
野花や草木も、全て私の味方だった。
しかし、この強力な魔術も、ここで全て捨てよう。
天からの音楽で皆を正気に戻し、人としての話を始めるときは、
魔法の杖も折り、これらの書物は全て海に沈めよう…。
完全に元の正気を取り戻した一行。
プロスペローは魔術の力を捨て、彼らに1人の男として話し始めます。
かつての威厳のあるミラノ大公の姿を取り戻し、
アリエルの力も借りず、心から話し始めます。
急に、彼が弱々しい老体に見える瞬間でもあります。
そう、彼がここまで執着してこの「復讐劇」を企てた本当の目的、
それは、「許す」という大いなる門の向こう側にある、彼自身の「死」でした。
「これで、私は死ぬことが出来る…」
彼は小さく呟きます。
彼は、人生を終えるために、娘の未来を作り、ミラノとナポリの未来を作りました。
彼の、人間離れした執着心は、真に人間らしい目的を持っていたのです。
「死」という目標に向かって、歩いていたのです。
そんな彼の心からの話が、最後にあります。
一行に向けて、彼の人間としての話が、この物語を締めくくります。
そこには、シェイクスピア自身の物語があります。
次の更新を最後に、このテンペストの紹介を終わらせたいと思います…。