清塚信也 OFFICIAL BLOG: DIARY

DIARY

2009.10.10

憧れは999と共に

もう誰もいない学校の屋上に上がって、
月明かりを僕の足下に射し込ませたり遮ったりする夜の雲のわりと速い流れを眺めていたら、
きっとあの向こうには違う世界があるんじゃないかっていう思いが
急に強く僕の脳裏を駆けめぐり始めて涙が止まらなくなった。
 
何かが哀しいとかそういうのではなくて、
その思い自体が僕の体に「涙を流す」という作用を起こしているかのようだった。

すごく不自然で、それは自分でも何だか不思議な感覚だった。
僕は泣き顔も作らず、ただぼぅっと月を無表情に眺めているままで、
まるで締め方が甘かった蛇口から出てくる水のようにボタボタと涙を足下に落としていった。

辺りにはキンモクセイの香りが漂っている。
もう夏の暑さは跡形もない。
つい数日前まで残暑が居座っていたのが夢みたいだ。

もう半袖は寒すぎるけど、僕は半袖のTシャツを着ていた。
でも後悔はしない。
むしろ、この季節の変わり目を「寒さ」という強い刺激で感じられる事を喜びと感じる。

それから僕は、
どうして冷たくなると高いところから街を見下ろしたくなるんだろう、
なんて他愛のない事を考えながら月と流れる雲から視線を外し、
今度は足下の街の方を見下ろしてみた。

夜の街は「美しい巣」のようだった。
僕は美しい夜の街を見下ろしながら、全てのものに憧れる。
街行く人、道路を走る車、ゴーゴーと音をたてる電車、
新しい綺麗な建物から古くて傷んでる建物まで、どんなものにでも憧れる。
目に付くどんなものよりも僕は下らないモノだからだ。
僕の存在なんて、古くて傷んでる建物よりも下らないし、
うらびれた通りに生えてる雑草より下らない。
でも、だから何にでも憧れる事ができる。
それが僕の活力だ。

…僕はどれくらい屋上にいるのだろう?
もう1時間くらい経ったか。

辺りには相変わらずキンモクセイの香りが漂っている。
目を瞑ると、空気が黄色いみたいだ。
僕はもう一度夜空を見上げてみた。
さっきよりまた風が強くなっている。
月の前を慌ただしく雲が行き来していて、とても不思議な感じのする夜だ。
今にも銀河鉄道999が宇宙の遙か彼方からやってきそうで、
僕はちょっと自分が「星野鉄郎」になったような気がして、楽しくなった。

キンモクセイの香りを嗅ぐと、今でも16歳だった自分を思い出す。
よく、学校の屋上で他愛のない事を考えていたあの頃を。

2009.10.08

高木慶太(Vc)

昨夜、ドイツ留学から帰ってきたチェリストの「高木慶太くん」のリサイタルに行ってきました。
場所は新宿区「初台」のオペラシティリサイタルホール。
久しぶりに聴いた慶太のチェロが素晴らしかったからかもしれませんが、
日本中にある小ホールの中でもとても雰囲気の良いホールだと改めて思いました。
なんというか、こぢんまりとした、と言うとちょっと語弊があるかもしれないですが、
変に飾らない媚びない感じが疲れないなぁーと思いました。
あの「初台」の地下の隅っこでリサイタルやってるっていう感じも、密会っぽくて好きです。

さてさて、久しぶりの慶太はというと…
ん〜なんというか、言葉が出てこない。
とても良かったです。
僕の文章力で音楽の良さを語ろうなんてきっと間違ってるのだろうけど、
昨日の慶太の演奏は、チェロの良さがたっぷりと溢れ出てきそうな演奏でした。
美しさ、力強さ、厚み、、、
シューマンやベートーヴェンがどうしてチェロの小品やソナタを作曲しようとしたのかがよ〜く理解出来ました。
ヴァイオリンでもピアノでもなく、チェロなのです。
チェロにしか出来ない事がたくさんたくさんあるのです。
チェロでしか表現できない音や歌い方、それは母性にも似た温かさかもしれません。
改めてチェロの素晴らしさを教えて貰いました。

僕は留学に行ってその国の人みたいになって帰ってくる人が苦手なのですが、
慶太はただの「かぶれ」ではなく、
ドイツの空気感みたいなものをそのまま持って帰ってきてくれたように思います。
昨日はまるでヨーロッパにいるみたいでした。
それにしても「空気感」って正体はなんなのだろう?
ちょっとした間とかアクセントとかなんだろうなぁ。
でも、きっとそれだけではない。
強い意志とか深い愛情とか、そういう類のものだと思います。
慶太はそういうことをバカにしない素晴らしいプロのチェリストだと思います。
小手先ではなく、心から溢れ出てくる音だから、人を感動させられる。
そういうチェリストが帰国してくれて、とても嬉しく思います。
いずれ、舞台をご一緒出来ればと思います。

2009.10.06

雨、音、トリオ

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【トリオの名前はまだありません。別に募集もしてません。でもいいのがあったら教えてください】
(左から;リリス佐藤氏、譜めくり若松くん、石田泰尚さん、僕、シンくん人形、金子鈴太郎さん)


  ♪   ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

ん〜、今回の雨はなんだか好きになれない。
ミュージカル「レ・ミゼラブル」では、
エポニーヌという女性が「恵みの雨よ」と言いながら雨の中で死んでゆくけど、
今、僕に降り注いでいるのは、まさにそういう暗くて哀しい雨のような気がします。

でも。
それでも、雨の表参道は若者の笑顔で満ち溢れていた。
雨って心の鏡なのかもしれないな。
その人の心境によって神聖なものから、暗くて哀しいものにまで変化する。
僕は今、この雨をとても憂鬱に感じているけれど、
ある人にとってはとても美しい雨なのかもしれない。

今日は青木さやかさんのピアノレッスンに行ってきたのだけど、
車から見える全ての景色が哀しい白黒映画ように見えてしまった。
表参道の若者達は、雨を受けてノビノビとしている野花のように
嬉しそうな笑顔を振りまいていたけれど、それさえも退廃的に見えてしまった。
で、そんな時に限って車の中ではコルトレーンの「Say it」なんかが流れてきて、
ちょっと泣きそうになってしまいました。
ジャズって「まぁいいじゃないか。みんな大変だけど、楽にいこうよ」みたいに
誰かから声をかけられているみたいな感じがする。
音楽って、本当に、言葉では届かない心の奥まで浸透してくる。
青木さんのピアノも非常に素直で美しい音色で癒されました。

そういえば、青木さんのレッスンに行く途中、
チェロの金子鈴太郎さんから電話がきて
「今、仙川で合わせ(リハーサル)が終わったんだけど、ご飯いかない?」って誘いが来ました。
「ごめんなさい今から仕事なんですー」っていうことで、今回はご一緒出来なかったけど、
けんちゃん(松山ケンイチ氏)以外の友人からご飯を誘われるのって、すごく久しぶりで新鮮でした。
最近僕は、金子鈴太郎さんと石田泰尚さんと3人で「トリオ」を結成したから、
とても久しぶりに団体行動を経験しています。
最初は3人で行動するなんて絶対無理〜と思っていたのですが、
ところがどっこい、3人でやってみたら気の遣わないこと気の遣わないこと…。
なんというか、3人とも、どこか共通するところがあるのかもしれませんね。
キャラクターはまったく違うんだけど。

…はぁ、それにしても長い雨だな。
でも、止まない雨はない。
この雨が長ければ長いほど、晴れの日の穏やかな秋風が美しく感じられる。
きっと。
僕の他にもこの雨を暗くて哀しいものだと思っている人いるかな。

2009.10.05

ゲーム

う〜ん、なかなか「ドラクエⅨ」をやる気にならない。
せっかく買ったのに、もう何ヶ月も放置してしまっている状態です。
僕の周りの人たちが結構やっていて「どこまでいった〜?」とか
「今レベルいくつ〜?」とか言って盛り上がってるのを見てるとやりたいなぁ…と思うのですが、
ギャルの妖精とかちょっと子供っぽいキャラ設定に入り込めないのです。
皆さんはやりました?
でも天下のドラクエなので、やったらやったで楽しいんだろうなぁ。
僕の姉は「全クリ」したそうです。

そういえば。
ゲームといえば、最近「デモンズソウル」という名作に出逢いました。
これは久々に燃えた!
シンプルにプレイ出来て、しかも超難しい。
もう、不条理って感じでバタバタ死にます。
かなりストイックなマゾゲー。
うーん、雰囲気としてはモンスターハンターのホラー版みたいな感じかな。
かなり暗いゲームです。中世のヨーロッパみたいに。
戦争や疫病で通りに死体がごろごろとあり、人々は絶望と不安を抱きながら生きている。
それを取り巻くオカルト宗教…「あなたは罪深い人間です。神に懺悔しなさい」みたいな。
精神的に健康じゃなきゃとてもプレイ出来ない。
でも、グラフィックだけに力を入れて内容が薄いっていうゲーム(最近よくある!)とは
比べものにならないほど、深くてやり甲斐のあるゲームです。
ヴァイオリニストの吉田くんなんか、僕がこのゲームの楽しさを延々と語ってたら
思わずプレステ3ごと買ってしまいました。
しかも、持っていたプレステ3を売った直後だったのに!
吉田くんも好きだなぁ〜。

ゲーム界は、これから期待の新作がゾクゾクと出てきます。
まずは「ウィニングイレブン2010」。
これは今体験版がダウンロードして出来るのだけど、
コンピュータが強くなっていてやりごたえがあります。
あとは、アサシンクリードの続編かな。
最近UBIソフトがアツいですね。
あぁ、今からワクワクするなぁ。

2009.09.30

やわらか

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交差点を黄色信号ギリギリでトラックが突っ込んできた。
トラックはあっという間に過ぎ去ってしまって、後には大量の排気ガスだけが残される。
「ちっ、あぶねえなぁ…」僕の横でコーヒーを飲んでいる若者が独り言を言う。
トラックの残した排気ガスは、やわらかな空気と混ざり合って僕の肺に入り込んできた。

…もう、秋だ。
季節の変わり目には、暗い地下室の金庫に忘れられたような、
さびついた古い思い出がいくつも這い出てきて、僕の心に入り込んでくる。
忘れていた重要な思い出から、
どうしてこんなこと思い出すんだろうと思わせられるような他愛のない思い出まで、
列を成してぞろぞろと。
僕はそれを「葬列だ」と思う。
その葬列は古い思い出だけじゃなくて、孤独も運んでくる。
それは、何かが過ぎ去ったあとの淡い孤独だ。

コンサートが終わって、客が全てはけた後のコンサートホール。
ついさっきまでは人々の熱気で温まっていて、
ホールそのものに血管があって体温があるようで、生き物のお腹の中みたいだった。
でも、あっという間に人はいなくなってしまう。
僕はその光景をみて、ピアノによっかかりながら「孤独そのものだな」と呟く。
もう鍵を閉められてドラキュラの眠ったあとの棺桶みたいに冷たくなっているピアノは、死んだみたいにみえる。

死とは孤独だ。
死はいつでもどこかにひっそりと隠れていて、演奏会が終わったあと、
楽しい時間が終わったあとに、そうやって僕のすぐ横を通り過ぎていく。
今、僕の頬を通り抜けた秋のやわらかい風のように。
交差点を通り抜けたトラックのように…。

もうトラックの排気ガスはどこかへ消えてしまった。
その代わりに、僕の目の前でもくもくと元気よくあがってくるコーヒーの湯気が僕を取り巻く。
その香ばしい香りは、秋のやわらかな空気と、よく混ざり合った。

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