清塚信也 OFFICIAL BLOG: DIARY

DIARY

テンペスト、おさらい。

IMG_0406.JPG
【先日連れて行かれた大自然の教会を、裏の丘から見下ろした写真です】

元ミラノ大公プロスペローは、実の弟アントニオの企みによってその地位を奪われました。
ナポリの王アロンゾーと手を組み、今のミラノを治めるアントニオ。
物語は、
そのナポリ王ご一行とアントニオが乗る船が大嵐にあって難破するところから始まります。

プロスペローは学問に精通し、魔法まで使えるという大賢者。
ミラノを追われ、愛娘のミランダと命からがら辿り着いた無人島に今は住んでいます。
無人島と言えども、そこにはキャリバンという名の人間のような怪物が住んでいました。
初めは温かい心でその怪物に接しますが、次第に怪物は図に乗って来ます。
ある日、愛娘のミランダに暴行を加えます。
それで憤怒したプロスペローは、彼を魔法で痛めつけるのです。
そして、今となっては薪を運び、檻の中で住む奴隷のように扱っています。

そんな無人島での日々でしたが、
プロスペローは自分を見失わず、名誉挽回の機会を伺っていました。
そして、訪れたチャンス。
それが、
ナポリ王の娘がアフリカにある国に貢ぎ、
その結婚式のために一行で海を渡るという機会でした。
その結婚式の帰りに、プロスペローは下僕の妖精アリエルの協力の下、大嵐を起こします。

ナポリ王アロンゾー、その弟セバスチャン、ナポリ王の息子の王子ファーディナンド、
誠実で忠実なナポリ王の顧問官ゴンザーロ(この男のおかげでプロスペローは生き延びた)
使いの二人、ステファノーとトリンキュロー。
そして、憎き実の弟アントニオ。

ナポリ王とその弟、顧問官のゴンザーロとアントニオを一緒に島へ漂着させ、
ファーディナンドは独りきり、ステファノーとトリンキュローは二人きりで漂着させます。

さぁ、復讐の、始まりです。

まずは、愛娘ミランダとナポリ王子ファーディナンドを恋に落とします。
父でありナポリの王であるアロンゾーを、
船の難破で失ったと思って落胆している王子ファーディナンド。
その彼と、まだ無人島でしか生きたことがなく、
父と自分以外の人間をちゃんと見たことすらない愛娘ミランダを、
それぞれ引き合わせて恋に落とすのは、賢者プロスペローにとっては簡単なことでした。
二人の恋を深い物にするために、プロスペローは二人の恋仲を禁じます。
そして、キャリバン同様、奴隷としてファーディナンドを扱います。
引き裂かれれば引き裂かれるほど強くなっていく二人の愛。
その事を、プロスペローはよく理解しているのです。
少しでも抵抗しようものなら魔法の力で彼を痛めつけ、その力の差を見せつけます。
さぁ、この先、どんな復讐劇が待っているのでしょうか…

2007.10.03

呪いの山

IMG_0375.JPG

お稽古場からの風景です。
夜になるとびっくりするくらい姿を変える「ピラトゥス山」のシルエットです。
ピラトゥス山には幾つかの伝説があって、
ドラゴンが住んでいるだとか、イエスを処刑したとされるピラトゥスの霊が死後この山にた
どり着いたという伝説があります。
それらの恐ろしい伝説から、この山には誰も近づこうとしなかったそうです。
今は、ロープウェイやらホテルやら、完全に観光地化していますが、
それでも、ご覧下さい、この「悪霊」の住む山の頂を。

ピラトゥスは、今も、
あの険しい山の頂上から人々を呪いと悪意に満ちた眼差しで見下ろしているのでしょうか…
精霊や悪霊、神様、教会。
ここルツェルンは、本当に芸術的な街です。

愛の音

IMG_0384.JPG

今日はお稽古というよりも、課外授業といったところでしょうか。
突然いつもとは違うところに呼び出されたと思えば教会へ。
今日はルツェルンの聖なる日らしく、とても大きなミサが開かれていました。
モーツァルトのミサ曲を生で聞きながら、カトリックの荘厳な雰囲気の中、
体中に聖なる霧がまとわりつくくらい、どっぷりとミサにはまってきました。

ルツェルンでのミサを終えてから、何やら1時間くらい電車に揺られて、
山々に囲まれた大きな教会へ連れられました。
駅の名前すらわからないまま僕はただクリスティーナさんについて行き、
それはそれは神々しい場所へと案内されました。

当然、教会の中での撮影はNG。
ということで外見しかお見せできませんが(外見も写真では収まりきらない大きさ)、
この、風格のあるどっかとした教会をご覧下さい。
鐘の音。
風のすり抜けてゆく感覚。
そして、緑の香り。
豊かな日差し。
僕は、本当に心が洗われているような感じがしました。

今回の「テンペスト」でも題材となっていること、「許す」。
ぐっと堪えて、自分の中の魔物を抑えて、人を許す事が出来たとき、
この「大自然」を感じた時の心地よさと、同じような感覚になるのかもしれない。
大自然の前では、人間は自分を「小さな存在」と確信するしかない。
だから、自分の抱えている問題も、小さくなってしまう。
そんな大自然と同じような力を、人間は自らのハートの中に収めているに違いない。
そんな大らかな気持ちを、いつも忘れないように僕は生きてゆきたいな。

そうだ。
良い音楽で感動したときも、同じような気持ちになるな。
それじゃあ、僕がそういう気持ちを忘れずにピアノを弾き続けていれば、
この大らかな気持ちは伝染していってくれるのかな。
また一つ、ピアノを弾き続けてゆく理由が増えた気がします。

戦争は終わらない。
人は憎しみ合う。
ぶつかり、衝突し合う。
醜い姿を見せる。醜い考えを持つ。
怠けようとする。
見栄を張ろうとする。
自分だけの欲望を満たそうとする。
…。
数え出したらきりがないけど、
でも、人の悪いところ全てを帳消しにするくらい、「愛情」というエネルギーは強いんだ。
別に、自分を美化することはない。
苦し紛れに強がる必要もない。
僕だって、自分が好きになれないでいつも苦しんでいる。
みんなそうなんだ。

でも、僕は、最後の力として人間には「愛」があると言うことを忘れたくない。
その大切さを、今日改めて学びました。
 だから、これからも僕は、
      
      「それでもね、人にはまだ愛が残ってるんだよ」
            
            って言ってるような優しい音が出せるように頑張ろうと思いす。

遙かなる愛の音は、絹のように柔らかな風にのって、あなたの心の中に入り込む。
手と手が絡み合うように、髪と髪が交じり合うように、あなたの全身の全ての窓から、
愛の音は入り込む。
ゆるやかに、確かなスピードを持って、繊細に、そして、柔らかく…

2007.10.01

悪魔の通れる扉

IMG_0373.JPG

僕のアパートのすぐ前の通りから見える風景です。
あんなに高い場所に何やらお城のような建物が。
ホテルかと思いきや、今は個人の所有物らしいです。
ロープウェイでしか行けずとても不便ではありますが、上はとても美しい景色でしょうね。
あのマイケルジャクソンも買おうとしたらしいです。
元々このルツェルンという街は色んな芸術家や有名人が別荘を持っていた場所。
あの山の上のお城も、きっと色々な有名人から奪い合われているのでしょう。

価値のあるものには、必ずお金持ちの「見栄」や「欲」がつきまといます。
一軒の家を巡って、一枚の絵画を巡って、一曲の音楽を巡って…。
昔から、貴族たちは、芸術を自分の所有物として納める事に執着してきました。
もちろん、そのおかげで芸術家たちは暮らしていけたのですが、
でも、あまりに強い見栄や欲が一つの場所に集まると…

あの、有名な、モーツァルトの作った「レクイエム」のような事態に陥ります。

30歳を過ぎる頃には殆ど死期を悟っていたモーツァルト。
彼の非社会的な人間と、庶民への音楽という新しい分野を確立した事などから、
彼は最終的にはかなり貧乏な生活をしていました。
盗られるものは全て妻に盗られ、周りの貴族からは嫌われ、孤立していった。
やがてモーツァルトは、健康も、精神も病んでいってしまったのです。
そんなある日、
相変わらず苦しい健康状態で作曲していたら、黒頭巾を被った男が訪ねて来ます。
その薄気味悪い猫背な男は、怪しい声でこう告げます。

「レクイエムを書いて欲しい」

そう言って、黒頭巾の男は大金を置いて帰っていきます。
帰り際に、「この金は半分だ。完成したらもう半分渡そう。」と言います。
健康状態も酷く、精神的にも孤独で貧しかったモーツァルトは、
その男の事を「死に神だ」と見間違えます。
そして、自分が死ぬと言うことを告げに来たのだと思いこみます。
「僕は自分のレクイエムを書かなくてはいけない。」
取り憑かれたかのようにモーツァルトは作曲し始めました。
いつ死ぬか分からない恐怖と共に。
一心不乱に書き続けます。
しかし、彼の体力はもう底をついていました。
レクイエムも、最後まで作曲できずに、骨組みだけを残して、彼は他界してしまいます。

骨組みだけ残されたレクイエム。

モーツァルトの命が注ぎ込まれた曲。

彼は一生で長調の曲を沢山残しましたが、このレクイエムは、ゾっとするような短調。
彼の中にこんな暗いものがあったのか…と少しばかり恐怖すら感じられる。
ベートーヴェンの厳しい暗さを下手したら上回るのではないでしょうか。

それほどの大曲の骨組みを、彼は残してこの世を去った。
骨組みを使って最後まで曲にするところは、モーツァルトの弟子がやったそうです。
そして、この大曲は、モーツァルトの死後、多くの人々によって奪い合いになります。
まずは、あの黒頭巾の男。
彼はとある伯爵の使いで、その伯爵がこの曲を手に入れた後、
「これは自分で作ったんだ」
と言い出しました。
しかし、これほどの大曲、モーツァルトにしか書けなかったという事は一目瞭然。
すぐに嘘だとばれてしまい、彼は貴族の身分を追われてしまいます。
その後も、骨組みから最後の一手まで仕上げたモーツァルトの弟子が、
「僕の曲だ!」
と言い張って社会から見放されたり、とにかく、色々な人の運命をこの曲は呪いました。
モーツァルトの呪いなのでしょうか…?

「価値のあるもの」というものには、必ず危ない何かがあります。
「危ない何か」
それは、人を引きつけて止まない「魅力」なのかもしれませんね。

僕のアパートの前にそびえ立つ山。
その上に建つお城。
あのお城も、見栄や欲といった「悪魔の通れる扉」を見つけては、
幾多の人の運命を変えてしまったかもしれません。

芸術には、そんな「魅惑的な怖さ」があると、僕は思います…。

そんなことを考えてぼーっとあのお城を見ていると、
隣からテンペストに出ている役者さんが、
    
「シンヤ、あなたもあのお城買えば?」

と、冗談まじりに言ってきました。
僕はすぐに笑い飛ばしましたが、その時の役者さんの悪戯な笑顔に、
悪魔のような怖さを感じてしまいました…。

ちゃんと、悪魔の通れる扉には、鍵をしておきましょう…

身体の中の同居人

「意識」というのは、人間が認識を持ったうえで存在する意志や考え。
「潜在意識」というのは、
 認識はしていないが、確かに人間の言動に影響を及ぼしている深層心理。

「意識」という形で認識していると思っている意志が、
本当は「潜在意識」という意識できない次元から影響を与えられている。

ということは、人の意志とは、「認識していると思いこんでいる」だけなのか。
全部認識出来ていると思っている意志も、意識できていないところから影響を受けている。

…大いなる矛盾だ。

結局、意識できていない、という事なのか…。

でも、僕の中に「意志」は存在する。
確かに存在している。
ただ、その中に、もう一つの生き物が存在していて、絶え間なく呼吸しているのだ。
僕が僕ではないような錯覚に陥る時、僕はいつも僕の中の生き物が主張していると感じる。
そう。
このテンペストの忌々しい呪いの言葉たち。
それを表情豊かに飾り立てる「音の羅列」を僕が創り出す時も、僕は僕でない。
時々、自分が遠くに行きすぎて帰って来れないのではないかと心配になる。
だけど、その心配を盾にして怠けることはいけない。
いつもギリギリのところまで行ってしまうまで我慢して、何かを生み出すんだ。
それが、僕にとっての生みの苦しみだ。

僕の中の生き物は、僕とは正反対。
罪悪感やプレッシャー、不安などといった「負」のエネルギーを力にする。
そうだ。もしかしたら「魔物」なのかもしれない。
でも、世の中「毒」の方が美味しいように、この魔物には確かな魅力がある。
どうして僕が僕のままでは生み出せないのか。
社会的な仮面「ペルソナ」とも何かが違う。
そう、僕が仮面をつけているのではなく、僕の中に「存在」しているのだ。
僕ではない。
だけど、その魔物を含めて、僕。
身体は、その魔物を外に出さないようにする檻。
でも、ピアノを弾くことで、魔物はちょっとだけ外に出ることが出来る。
解放するのと交換に、僕は「音」を得るんだ。

「怖い」と思ってはいけない。
あなたにも存在するのだから。
魔物は、あなたという人間のエネルギーを発散する「力」を持っている。
その力を持ってすれば、誰もあなたの真似は出来ない。
そうだ。
魔物は、幼いときの自分なのかもしれない。
本当は僕の身体は僕の中にいる魔物のもので、今の僕がいつしか奪ったのかもしれない。
そうだとしたら、ごめんね。魔物さん。
でも、君を閉じ込めたりはしない。
いつも、解放してあげる。
だから、お願いだ。
僕に最上の「美」を下さい。
さぁ、夜もふけてきた。
これからは君の時間だよね。
思う存分、遊んできなさい。

悪魔は、天使に負けたのではない。
天使に勝つと言うことに興味がないだけだ。
だから、僕の中の魔物も、僕に抑えつけられている訳じゃない。
僕という人間を「支配」する事に興味がないだけだ。
そう。
いつでも、どこでも、乗っ取ることなんて簡単に出来る。
だけど、彼らは、底暗く、ほのかに冷たい「心の闇」に住んでいることが好き。
そこから僕らの「良心」をコントロールするのが好き。
僕らの気付かぬところで、僕らを支配するのが、好き。

あなたが何でもない、ふとした瞬間に、どうしようもなく悲しくなる時があるでしょう。
それは彼らにコントロールされているからです。

僕たちは魔物にコントロールされていると言うことを忘れないで。
それを忘れたら、自分が寂しい時、悲しいとき、辛いとき、苦しいとき、
自分のせいにしてしまうから。
あなたは生まれもって天使なのです。
だけど、心の中に「魔物」を共存させている。
だから、時々、あなたのせいじゃないのに、良心が痛む事があるのです。

あなたは悪くない。
全ては、あなたの「力」を、あなたしか持っていない「力」を生むための苦しみです。

それを、忘れないで。

人間という存在は、自然という存在から地球を奪った。
それを償うために今準備をしなくてはいけない。
そして、僕たちは、魔物から身体を奪った。
だから、それを償わなくてはいけない。

 一生懸命生きると言うこと。
 いつも悪と向き合って葛藤し続けなければいけないこと。
 自分を見失ってはいけないこと。
 他の人の「悪」を発動させないこと。
 そして、全てを愛さなくてはいけないということ。

そうだ。
愛は、もしかしたら「呪い」かもしれない。
僕ら人間に与えられた呪いだ。
生きている限り、人は愛を抱いていなくてはいけない。

死ぬまで、僕らの償いは終わらない…。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43