清塚信也 OFFICIAL BLOG: DIARY

DIARY

ルツェルンの白鳥

シェイクスピアの「テンペスト」は、
死を目の前にして「狂ってしまったんじゃないか」という程のパニックを起こしている状況から
始まります。
いきなり冒頭が「混乱」なのです。
今日は、その部分のお稽古をしました。
ドイツ語公演なので、僕には台詞を読み取る力はないのですが、
随時助監督さんが英語で訳してくれます。

今日の僕の出番は、冒頭に出てくるエリアルという妖精が幻想的に歌う曲を作曲する事。
そして、地獄に落とされたかの如く混乱する人々をよりいっそう駆り立てる音楽。
この二つでした。
まだ完全な形にはなっていないけれど、お稽古から役者さんたちが「本気」なので、
かなり緊張感があり、集中力も向上、その場でもかなり形になっていました。
あぁ、本当に幸せだ…。
ただただそう思いました。

ルツェルンには大きな美しい湖があります。
そこからかなり流れの激しい川が出ています。
その川沿いに僕が今住んでるアパートがありますが、川には白鳥がいて、とてもかわいい…
と思いきや、白鳥はすごく大きくてかなり威圧感あります。笑
先日みなとみらい大ホールで、山岡優子先生とサンサーンスの「動物の謝肉祭」を連弾させ
て頂きました。
その曲の中であの有名な「白鳥」という曲が出てきますが、僕は実は今までちゃんと白鳥を
観たことがなかったので、それはそれは細くて繊細な、そう、ちょうど妖精のような生き物
を想像して曲作りをしていました。
でも、山岡先生の白鳥があまりにドラマティックで情熱的なので、二人でよく練習の時に
ケンカになりました。笑
あんまり先生も折れないので、僕の中学の時からの恩師であり、山岡先生の親友でもある
加藤伸佳先生に助けを求め、「僕の白鳥で弾くように山岡先生に言って下さい」と裏工作
しました。笑
そのとき実際に加藤先生が山岡先生に言ってくれた言葉は…

「山岡先生の白鳥は、首が太いよ」

でした。笑
これには爆笑しました。
そこにいる3人とも、かなり爆笑。
それにしても、これ以上ない言い方だったなぁ〜。^^
そんな、「首の太い白鳥」ですが、実際の白鳥って、結構首がしっかりしてるんですね。
びっくりしました。
意外と、山岡先生の白鳥が正解だったのかもしれません。笑

湖や川にいる、美しい純白な白鳥を間近でみて、改めてそんな事を思いました。
でも、本当に美しい街です。ルツェルン。
本番の劇場も素晴らしい。
皆さんも是非、観に来て下さいね!(^^)/☆☆☆

2007.09.05

DIARY

スイスのチューリッヒ空港に着陸して、
そこから約1時間特急列車に揺られてルツェルンに到着しました。^^
12時間のフライトは、映画を観まくってあっというまでしたよ。
演出家のクリスティーナさんとも早速再会できて、
今さっき打ち合わせをして帰ってきたところです。
もう10度あるかないかの気温で、ちょっと肌寒いですが、
30度の世界から来た人にとっては「天国」です。
湖と山々に囲まれて、新鮮な空気に名物の時計屋さん…
なんだか、ヴァカンスのようです。笑
でも、明日からみっちりお稽古。
シェイクスピアの「テンペスト」ではかなり重要となってくる、
「妖精エリアルの歌」に、どうやら7人の子供たちのバックコーラスが付くみたいです。
これは、作曲のし甲斐があるなぁ。
今回は、ピアノ1本を基本にして、どこまで出来るかを試してみたいと思います。
オーケストラの迫力を上回り、ヴァイオリンやフルートより甘く、
チェロやコントラバスよりふくよかで、トランペットやトロンボーンより鋭い音楽を、
ピアノだけで再現してみせます!^^
長い間留守にしますが、僕のこと忘れないで下さいね。笑
さ〜て、そろそろ時差ボケるか。

2007.09.03

DIARY

ケンちゃんのユニクロCMがとても心落ち着く素敵なものでした。
うん、あんなデートしてみた〜い感じですね^^
世界陸上も終わりましたね。
リレーがとても感動しました。

そんな中、僕はスイスまで明日1日だけという事になりました。
明日は準備で忙しいだろうな〜。
僕のスイス行きへの激励をたくさん頂きました。
メールや手紙、絵や写真など、本当に多くの応援を頂きました。
これだけ色々な方に愛されているんだ、僕は絶対がんばれます。

僕は海外へ何度か出かけたことがありますが、今までの海外経験から、
僕にはある「こだわり」があります。
それは「サンダル」です。笑
これを忘れたら悲惨です。忘れた場合は絶対に現地調達。
しかも、ビーチサンダルと、普通に履き回れるサンダルを最低2つ以上。
部屋の中を靴で生活するのが嫌なこと、お風呂などの床がそれ程綺麗じゃない事が多い事。
それらを想定しています。
後は爪切りや万能ナイフなどは手荷物ではなく、トランクの方に入れておくこと。
(没収されちゃうからね)
最近では飲み物や整髪料などの「液体の入ったもの」も没収されちゃう事があるので注意。
そして、預ける荷物は20キロまでです。
モスクワ留学に行くとき、軽く70キロを超えていて、10万以上かかると言われました。
でも、僕の尊敬する「伯父さん」が、

「学生が勉強しようってのに、そんなに金とって何のつもりだ!!!!!!」

と成田空港に響き渡る程に怒鳴りつけてタダになりました…。笑
あのとき伯父さんがいてくれなかったら大変だったなぁ。
でも、本当は20キロまでだから、明後日はちゃんと守ります!^^
さぁ、皆様の愛を両手に、いっちょ、希望と夢の舞台を作りに行ってきますか!!

2007.08.31

季節が流れて…

まだまだ湿気も多いし、どちらかといえば「暑い」けれど、
段々と秋が見えてきたように感じます。
ゆっくりと、ゆっくりと、少しずつ、poco a poco...

僕は、自分の未来を信じて、期待と栄光の道を歩みと同時に、
追憶の慈しみを追い求めているところがあります。
未来と過去を、同時に感じているのです。
こんな風に、季節の移り変わりには、必ず昔の事を思い出します。
段々と変わってくる気候が、僕の中の眠っている記憶を呼び戻すスイッチを押すのです。

目を瞑って…
「あぁ、あの頃、あの頃の秋はとても幸せだったなー」
まるで催眠術にかかったかのよう。
とても心地よい瞬間です。

こんな季節の移り変わりに、僕は必ず自分をリセットします。
考えすぎて、積み上げすぎた自分の思いを、一度リセットします。
初心に戻るのです。
難しいリズム、ハーモニー、音楽の知識…
言い出したらきりがないけれど、音楽も、突き詰めて行くと本当に難しい世界。
日頃からの「考え」というのが、かなり重要になってきます。
でも、僕が音楽をする理由は、そこにはない。
僕が音楽を奏でようとするのは、音楽を愛しているから、
そして、音楽と共に、愛を語りたいから。

そんな純粋な気持ちを、季節の移り変わりはいつも助けてくれます。

決まり事や難しい知識、そんな事どうでもいい。
本当に根本にあるのは、「好きだ」という、どうしようもない気持ち。
誰にも遮る事の出来ない、純粋な気持ち。

いいんだ、間違えなんかどこにもない。
思いっきり、自分を表現しよう。

移り変わりには、いつもそう思えるのです。
愛するものを目の前にしては、自分の知識なんて何の役にもたたない。
誰にも止める事の出来ない愛情。
そんな強いエネルギーを表現するのに必要なのは、

知識や頭脳ではない。

グッと自分の心の核心をつくような、分厚い、愛なんだ。

2007.08.30

ただいま

今日から大阪入りしています。
明日のいずみホールは、今回のヨン様コンサートの最後。
また、皆様と共に感動を生み出せるよう、命を削ってでも真剣にピアノに向いたいと思います。

ところで、明日のいずみホールは、とても懐かしいホールなのです。
というのは、僕が中学生の時、ここでコンクールの全国大会が行われました。
厳しい予選を勝ち抜いて、何ヶ月もかけて、ようやく辿り着いた全国大会。
あの時は、本当に辛かったけれど、今となっては少し笑いが出てしまう、淡い思い出です。
「幼かったな〜」
そんな言葉が出てきます。
でも、あの頃は、僕にとっても僕の周りの人にとっても、とっても辛かった時期。

子供の頃から厳しい英才教育と、激しい特訓の甲斐あって、
僕は数々のコンクールや試験などで、満足のいく結果を出していました。
でも、中学生に上がると、がらっとレベルが変わるのです。
特に、中学の時の女の子の成長は、目を見張るところがあります。
急激な周りの変化について行けず、僕は中1で、人生初めての「落選」を経験します。
それまで挫折を知らなかった僕は、かなり調子に乗っていたので、
その落選は、かなり僕の精神を蝕んでしまいました、
「僕は天才じゃない」
「僕は選ばれた人間じゃない」
その現実から逃げたくて、ピアノ以外の色々なことに手を出した。
でも、どれも「逃げ」という言葉がつきまとう以上、中途半端に終わる。
そう。どんな分野だって、「逃げ」という呪いを背負っている以上、
そう簡単には通用しない。
結局いつも音楽に戻ってきてしまい、最終的には決断を下さなくてはいけなくなりました。

「あと一回だけ、全力でがんばってみよう」

ということです。
それこそ、「命を削ってでも」やってみよう。
という決断です。
それから僕は、中学校もろくに通わず、くる日もくる日も練習に励みました。
1日12時間近くも練習していたこともあります。
もちろん、12時間もの時間を数曲にかけるというのはナンセンスな事。
でも、僕は、頑張りたかった。
頑張っていないと、自分がすぐに死んでしまうような感覚がしていたのです。

そんな毎日を生きていた中学2年生のひと夏。
ついに、コンクール当日がきました。
「もう、これで終わりなんだ」
そう思うと、いやにピアノが愛おしく思えたものです。
僕は、無心になって弾きました。
もう後がない、という脅迫観念からは、完全に脱していました。
まずは予選を勝ち抜き、次は本選。
僕は、競馬でいえば、かなりの大穴だ。
つい何年も前までは人気の馬だったのに、
去年予選も通れない惨敗から、一気に人気もがた落ち。
誰も、僕が東日本の代表に選ばれるとは思わなかったでしょう。
でも、僕の12時間練習は、無駄にはならなかった。
それは、努力が報われると本当に実感したときでした。
本気になって、本当によかった。
そして、去年予選で落とされて、改めて「本気になる」という事が出来てよかった。
とさえ思いました。

そして、東日本代表として、全国大会に挑みました。
まさに、その時の会場が、明日のいずみホール。
あの時の全国大会では、もう既に、プレッシャーという壁を完全に越えていた気がします。
本当に楽しめて弾けた。
弾いている間中、涙が出そうで、ピアノが大好きで、音楽が愛おしくて…。

「僕は、ピアノをやめない。だって、こんなに愛しているんだ。」

心からそう思いました。
そんな思いでピアノを弾いていると、僕の出番は、あっという間に終わってしまった。
そして、結果発表。
僕にはどうでもよかった。
結果は、どうでもよかった。
僕にとって、またピアノを愛せるようになった事が、何よりも収穫だったから。
皆が結果発表する場所に集まってきて、少し窮屈に感じました。
僕は2階に避難して、ただ独り、結果を待っていました。

係の方が、ゆっくりと結果を張り出す。
そこに、僕の名前が書かれていました。
涙よりも前に、鳥肌が立ちました。
僕はそれまでの1年で、プライドも、意地も、自信も全て失ってしまっていた。
そう、言わば、そこには「チャレンジャー」としての僕が立っていたのです。
だから、そんな、「価値の薄い青年」の名前を、皆が一点を集中して見ているのを、
とても不思議に思ったのです。
「僕なんか、そんな価値のある人間じゃない」
というのと、
「僕は、自信を取り戻せたのか」
という感情が入り乱れて、自分を見失いそうでした。

でも、音楽がある限り、僕は大丈夫だと思いました。
ピアノを弾ける限り、僕は歩みを続ける事ができる、と。


そんな思い出深い場所。いずみホール。
明日は、
皆様より少し早くホール入りして、そこにあるピアノに、そっと話しかけようと思います。

「ただいま」と。

きっと、その時の僕の顔は、いたずらな笑いを浮かべているに違いありません…

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