清塚信也 OFFICIAL BLOG: DIARY

DIARY

2009.01.10

真夜中のTV番組

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【ちょっとぶれちゃいましたが、昨年末に笑福亭鶴瓶師匠と青木さやかさんとライブ前に撮った写真です。明けましておめでとうございます!】

僕は眠かった。
とにかく、眠かった。
でも午前3時から観たいテレビ番組があった。
だから、頑張った。
何度も深い深い眠りの谷底に落ちていきそうになったが、
いつも崖っぷちで気を確かに持った。
落ちそうになってはハッとして起きる、その繰り返しだった。
毛布の温かさやテレビ画面の青白い光、
冬の空気の冷たさや夜の暗さまで、
全てが僕の眠りを誘うかのようだった。
0時くらいに急な睡魔に襲われて以来、
ずっとこの拷問のような時が流れている。
僕は本当にこれまで苦労してその番組が観たいのだろうか?
そんな自問自答を繰り返し、
それでも、もう2時間以上この過酷な状況と闘い続けている流れで、
もう眠ってしまおう、という決断を下す事が出来なかった。

携帯のバイブが鳴った。

いつしか僕は眠ってしまっていたらしい。
ここまで眠気と闘ってきたのに、うとうととしてしまうとは僕とした事が…。
時計を見ると2時45分だ。
良かった。まだ3時までは少しある。
これで起きてみたら朝でしたというのだけは避けたい。
携帯の画面が留守番電話に繋いだ事を知らせた。
僕は急いで携帯を手に取り、通話ボタンを押した。
「もしもし」
僕が言うと、相手はすぐにしゃべり出した。
「あぁ、俺だけど、今なにしてんの?」
聞き覚えがない声だ。
「あのぅ、どなたかとお間違え…」
「今何か床に落ちた音がしたなぁ。それ、お前の大切なもんなんじゃないの?」
間違い電話だろう。
「多分…」とその男は言った。
「夢とか希望とか、そんな類だよ。お前、大変だな。
 元旦からそんな大切なもん落としちゃってよ、まじで、可哀想だよお前」
「あのぅ、どなたかとお間違えじゃ…」
「でもな、わかるよ。そういう未来への希望みたいなもん持ってると、ことごとく裏切られるかんね。
 お前がそういう夢とか希望とかを落としたのもわかる。正解かもしれないな。
 世の中、希望じゃなくて、覚悟が必要だもんな。
 じゃあ、そろそろあの番組始まるし、起きた方がいいよ。
 じゃあな、今年も頑張れよ!」
電話は切れた。
ツーツーツーという虚しい音が嵐や竜巻にやられて廃墟と化した小さな村を思わせた。

僕は眠りから覚めた。
起きたら丁度観たい番組が始まったところだった。
「夢か…」
呟いてみたが、口がカラカラで声にならなかった。
でも、まあ、観たい番組には間に合った。
眠気との闘いには勝てなかったけれど、結果としては良かった。

「もし、ファウストが悪の道にそれたとしても、最終的に神の道に戻って来たのなら、
 メフィストよ、お前は自分を恥じるがいい」

ゲーテはそんな事を言ってなかったかな。
催眠術にかけられたような今、僕の思考能力はゼロに近かった。
すべてがうつろでおぼろげな世界。
なんとも美しいような、哀しいような世界だ。
まるで、それはまるで、この世の中そのもののようだ。
すべては夢の如し。
放たれた矢は刻々と僕の脳天に向かっている。
いつかは僕の頭を打ち抜くであろう。
でも、そのいつかまでは、僕は夢の世界のように美しくうつろな感覚を楽しみたいと思う。

観たい番組を点けっぱなしにしたまま、僕は深い眠りに堕ちた。
とても満足な顔をして、まどろみの中へと…。
なぜか、頭の中はチャイコフスキーの悲愴の最終楽章が流れていた。

2008.12.12

ダイアリー

「僕の勤めている会社は外資系なんだ」と突然その男は言った。
イタリアかどこかのぴったりとした高級スーツを着こなし、
香水の匂いを辺り一面に漂わせながら、男はパソコンで仕事をしているらしかった。
僕が男の隣りの席で雑誌を読んでいると、突然男は言葉を発したのだった。
「僕の勤めている会社は外資系なんだ」
カタカタカタとパソコンのキーを叩く音を響かせ続けながら、男は決して画面からは視線を外さない。
最初僕に話しかけているのかどうか分からなくて、僕は周囲をキョロキョロと見廻してみたが、
結局誰に話しかけているのか分からなかった。
「外資系はね、能力だけでなく、センスや人柄も評価の対象になるんだよ」

僕らは今、新千歳空港発、羽田空港行きの飛行機に乗っている。
中央の座席は3つ続き、両端は2つ続きになっているが、僕らは中央の3つ続きの席に座っていた。
僕が真ん中、外資系の男は僕の左隣りだった。
「君の読んでいるその雑誌、会員制の割と専門的な経済誌だよね」
男は相変わらずパソコンの画面から視線を外さない。
「君も会社勤め?君も外資系?」
僕は直感的にこの男とは仲良くなれないと感じていたので、あまり話す気にはならなかった。
「いえ、会社勤めではありませんし、雑誌は友人から貰ったもので暇つぶしに読んでいるのですよ」
と、ここで突然僕の右隣りの女の子が泣き始めた。
お母さんが抱いている3歳くらいの女の子だが、突然何かがプッツンしたかのように大声で泣き始めた。

僕は子供の泣く声が好きだ。
コンサート中に泣かれて困る事もあるが、僕はそれでもまだ微笑みたくなってしまう。
子供の泣き声は未来を呼ぶ声だと感じる事があって、その子の未来がとても愛おしいものに感じられる。
僕は大泣きを始めた右隣りの女の子に変な顔をして笑いかけようとした。
「あのね、うるさいですよ。ここはね、飛行機。ヒコウキ。分かりますか?
子供のしつけは親のやることでしょ。さぁ、ここまで言えばわかりますね」
男は初めて画面から視線を外してこちらをのぞき込んでいた。
頬がテカテカしていて、そのテカリにパソコンの青白い画面が反射していた。
「ねえ、君もうるさいと思ったらちゃんと言って良いんだよ」
右隣りの相変わらず泣きやまない子供を抱いた母親は「ごめんなさいごめんなさい」と謝っている。
「いえ、僕は大丈夫です。子供も好きですし、子供の泣き声も結構嫌いじゃないです。
それより、外資系のお兄さん、あなたのパソコンのキーを叩く音の方が僕はイヤです」
と僕がハッキリとした声で言うと、男は神経質そうに右の頬だけをぴくぴくと動かしていた。
それと同時に女の子は泣きやんだ。

それにしても「結構嫌いじゃない」とは我ながら変な言葉だ。
結局、飛行機が着陸するまで女の子は一度も泣かなかったが、
着陸してからスポットに飛行機が到着するまでの間、また雄叫びのような大声を上げて泣き始めた。
CAのお姉さんまで心配になってしまうくらい酷く泣いていた。
その子のお母さんも含め、そこにいる全ての人々が「どうしてここまで大泣きするのか」が分からなかった。
いくら子供とはいえこれは少し泣きすぎだ。
心配になってしまうくらい泣きすぎだ。
やがて飛行機はスポットに到着し、僕らの座っているすぐ左隣りの扉が大がかりに開いた。
そして、開いた瞬間、女の子は僕の方をぷいと素早く向いて、

「ばいばい」

と言った。
それっきり、女の子は泣かなかった。
もし、あの女の子が僕とのお別れを惜しんで泣いてくれていたのだとしたら、
なんだかちょっと心温まる話じゃないか。

2008.11.24

降るべきじゃない雨

繋がるとき、繋がらないとき。
願いが叶うとき、願いが破れるとき。

ねえ、人生って本当に色んなタイミングがある。

今日は雨の一日。
それはタイミングとしてあまり嬉しくない雨だった。
今日の雨は、なんとなく、降ってはいけない時に降っているような感じがする。
降る予定がなかったのに降ってしまった雨…。

「僕は生まれた時代を間違えた。タイミングが悪かったよ」
と、諦めを含んだ複雑な微笑みを浮かべて僕に話した人がいた。
「もう、死にたいよ」ともその人は言った。
「夏にね、いくら温度を下げて冷たくしても『冬』にはならないでしょ?」
その人は中性的な話し方をする。
女性の強い心と男性の繊細な器を持っている。
その人が女性なのか男性なのかは、、、秘密。
「冬の寒さは冬だけのものなんだ。タイミングだよ。死も同じ。
夏に寒くしてもそれは冬ではなのと同じように、死は向こうから訪れないと死じゃない。
自分で設定した死はほんものじゃないと思うんだよ」

死は季節。

だから、死は僕らが勝手に設定できるものではない。
死はいつか訪れるし、皆に訪れるという所は平等だ。
金持ちも権力者も関係なく。
だけど、死は向こうからやってくるから死。
それは自由には選べない。
僕は中学生の時「いざという時は死があるさ」と言い聞かせて色々と頑張った記憶がある。
でも、それは間違えだったという事だ。
死ぬ権利というものは自由じゃない。
死から選ばれなくてはいけないんだ。
ミュージカル「エリザベート」のように。

僕は、あらゆる「タイミング」を自分で演出できたら、と思う。
でも、いつもそのせいで僕は苦しむ事になる。
それでも、最近、少しずつ少しずつ、
季節に逆らわないで生きようと思えるようになってきた。
今日の雨…。
なんだか少し今日の雨が好きになってきた。
冬の寒さを感じるために暖房はつけず、
雨が降っている事を確かめるために音楽もかけず、
今日は静かな夜を迎えようと思う。

2008.11.21

山口・2日目

山口での2日目は美しい晴れだった。
夜の冷たい雰囲気とはまったく違う景色がそこには広がっていて、
ホテルから観られる山々に囲まれた町並みは、穏やかで表情豊かだった。
僕は昨日到着した時の、寂しい、冷たい町を想像していたので、
カーテンを広げた時に一気に広がったこの光景にいささかの感動を覚えた。

僕はしばらく立ちつくして、色んな建物や色んな車を観察していた。
そして、何らかの縁で僕が将来ここで暮らす想像をして、
少し運命や人生の不思議さにパニックを起こしてしまった。
全ての出逢いに意味があるとしたら、僕がこの町に出会った意味は何だろう?
そんな事を考えながら、僕は今まで出逢った人、別れた人の事を思いだしてみた。
思い出してみると、出逢いも別れも、本当に様々な形があった。
運命的に出逢った人、劇的に出逢った人、すれ違って別れた人、成り行きで別れた人、、、

生きているのに、どうして別れなきゃいけないのだろう?

僕は「死」による強制的な別れを知っている。
それを知っていると、生きているのに別れるという事にとても強い反感を覚える。
それでも最近は「仕方がない」という言葉をやっと覚えてきた。
人は生まれた時に両手で水をすくう。
そして、死ぬまでなるべく水をこぼさないように生きる。
でも、絶対に、絶対に、水は手のどこかからするすると抜けていってしまうのだ。
一滴もこぼさないで生きるなんて、無理だ。
でもだからといって諦めて水をぶちまけてしまってはいけない。
最後まで、大切に、大切に、その水を守らなくてはいけない。
守ろうとするその姿勢が大切なのだ。
「こぼしたくない」
そう思う事が、大切なのだ。

あっという間に時間が経っていた。
いつから立ちつくしていただろうか。
僕は思い出した一つずつの思い出を愛しく思った。
その全てが自分が生んだ子のように感じた。
一つずつ思い出をかき集めて抱きしめたかった。
「失いたくない」
そう思った。
僕には失いたくない思い出が沢山あり、今こぼしたくない水もまだ沢山残っている。
これが生きるという事だと思う。
幸せなんだと思う。

初めて来た山口の町並みは、そんな僕の思いで立ちを優しく迎えてくれた。

2008.11.20

寂しい旅

今日僕は初めて山口宇部空港に降り立った。
羽田ほど大きくないし混んでもいないが、
エネルギーがぶつかり合っていて活気があるように感じた。
空港という所は決まってそうだ。
広さや人数などに関係なく、空気に動きがある。
そして、多くの出逢いや別れがあるからか、
何かそこには「切なさ」みたいなものも感じられる。
僕はそういう空港の雰囲気が大好きだ。

空港から新山口駅まではバスを使うと便利だと言われたので、
空港のインフォメーションのお姉さんの言うとおりにした。
新山口に着くと、JRで山口駅まで行く必要がある事に気付いたので、
僕は迷わず普通列車に乗り込んだ。
特急と普通とあったのだが、新山口から山口に行く普通列車は、とても風情があった。
こんな風に言うと怒られるかもしれないが、
なんというか、すごく「田舎」っぽかった。
僕は旅好きだ。
それもひとり旅。
ひとり旅を美しく演出してくれるのは、土地柄がしっかりと出ている風情だ。
僕は、2両しかない普通列車に乗り込み、列車の出発を立ちながら待った。

列車は比較的空いていたから座る事も出来たのだが、
僕は列車で座るのが好きではないのでひたすら立っていた。
しかし、2駅も行くと学生たちが溢れるかのように入ってきたので、
立っていて良かったと思った。
学生たちは修学旅行かのように車内で楽しそうにしていた。
僕はそれを見ていてなんだかとても幸せだった。
うるさいし、決してマナーがあるとは言えないのだが、
それでも若い人たちが元気にいる事が愛おしかった。

列車は30分もすると山口に着いた。
山口に着くと、もの凄い冷気が押し寄せた。
想像の範囲を明らかに超えていた寒さに、僕は少し滅入った。
でも、この「滅入り」が良いのだ。
これこそが旅の醍醐味だ。
不安、緊張、そういったストレスの親戚たちが旅の隠し味としてスパイスを利かせてくれる。
僕はタクシーの運転手にホテルの名を告げた。
すると運転手は「すぐそこだから歩いたら?」と言った。
そうか、すぐそこなら自分の足で歩きたい。

「すぐそこ」というのはどういう意味だろうか?
僕にとってのすぐそことは、1ブロックくらい先の事だ。
でも、もう信号2つ分歩いていて、5,6分は歩いた。
僕は1人で歩くときは割に速い速度で歩くので、もう結構な距離を歩いたと思う。
勿論、まだ5,6分の範囲なのだが、
これを「すぐそこ」と言えるかどうかは疑問だった。
タクシーに乗ってもいい距離じゃないか。
相変わらず冷たい風が僕の体にぶつかっては離れてゆく。
途中で古い(半分くらいは店の灯りが消えている)商店街を横切った。
結局ホテルは7分歩いたくらいの所にあった。
確かに、タクシーに乗るには…

人の感覚というのは分からない。
価値観も分からない。

僕は大好き、ある人は大嫌い。
僕は正義だと思う、ある人には極悪に感じる。
でも、僕が愛していて相手も愛してくれる場合だってある。
「人それぞれ」
この言葉が、とてもネガティブに感じる時もあれば、愛しく感じる時もある。
どちらにしろ、僕はそういった感覚をゆっくり感じて人生を過ごしたい。
その一つ一つを情報として自分の生命や魂に刻み込みたい。

僕は、とにかく、寂しい旅が大好きだ。

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